478人が本棚に入れています
本棚に追加
透子はもう一度あたりを見渡した。
やはり人気はない。
躊躇いつつも、ベンチ横の木陰に買い物袋を置き、バッグからハンカチを取り出すと、吸水場でそれを濡らそうとして一瞬戸惑った。
リバティプリントの小花柄ハンカチ……。
夫と付き合い始めて間もなくプレゼントされた物だった。
透子はもう一度、彼を見てからハンカチに軽く水を含ませて、男の唇からにじみ出ている血を軽く拭おうと押し当てた。
その時、傷がしみたのか男はピクッと身を震わせ、薄く目を開けた。透子は少し安心して笑みを浮かべる。
徐々に目を開く男の顔を見て、透子はドキッとした。
最初のコメントを投稿しよう!