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蝉の声が朝の涼しい気温に関係なく耳障りに鳴き始めた。
出勤する夫、高士は靴べらで几帳面にフェイクレザーの靴を履き、靴箱に置かれたティッシュを一枚引き出して靴の汚れを拭き取った。
「行ってらっしゃい。今日も遅いの?」
ティッシュを受け取り、透子は聞く。
「あぁ…。夕飯は先に食べて休んでなさい。」
命令口調とまではいかないが、冷たい言葉。
「そぅ……。」
高士は横目で透子を見て、鞄を受け取ると、そのまま玄関を出た。
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