第十二章 目的

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「…………」 勇者以上僧侶以下くらいの年齢に見える面接官は急に黙り、俺の言わんとすることを理解し始めたようだ。 「俺が遅くなると、隣の家が大変なことになるんですよ?」 ゴクリ。唾を飲み込む音が聞こえる。 「それは戦士さんの彼女のせいであって、そんなこと私に言われても困りますよ」 なんとまあ正論を。 だけど俺は引くわけにはいかない。 「もし隣の家が吹っ飛んだりでもしたら、その追及が私に来ちゃうわけですよね? そしたら私、あなたのせいだって証言しますよ?」 「………………!?」 面接官の目が大きく開かれる。 「勇者一行の戦士が証言するんです。きっと周りの人も信じてくれるでしょう」 「戦士さん…………脅し、ですか?」 「なぁに。ただの取引ですよ」 お昼にやってるドラマから得た知識を活用。これが大人というものだよ。 「…………もし、もし私が戦士さんを採用すれば、イエジチは助かるんですね?」 …………イエジチ? あぁ、人質ならぬ“家質”ね。 「もちろん」 にんまりと笑う俺。いつから俺は悪人になったんだっけ……。 「くっ、家質の命には代えられないっ!!」 家質の命って違和感しかねぇよ!! そんな違和感たっぷりの言葉と共に面接官はゆっくりと俺に近付く。 「戦士さんを、採用します」 「ありがとう!!」 俺は面接官とかたい握手を交わす。 母さん、仕事決まりました!! 「戦士さん、因みにですが、脅しまでしてここに就職したい理由はなんですか?」 「前からこういう所で働きたいなと思ってたのと、あとは、この前お隣さんに「戦士さんって何かやってないの? あ、ごめんなさい、ニートやってるのよね」って言われたから何がなんでも早く仕事を始めたかったんですよ」 我が家の隣の金持ちの家のオバサンは何かとムカつく人なのだ。 「隣の家の牛舎吹き飛ばしたのって確信的じゃないですか!?」 「ナンノコトデスカ?」 たまたま、隣の家の牛舎が吹っ飛んだだけだ。そう、たまたま。
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