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「交渉は決裂ね。
今日はこれにて失礼」
街の中心部にそびえる200階建ての最高裁判所
その一室に集まった群衆が、弱冠18歳である少女の突飛な行動に度肝を抜かれた。
黒皮のコートに不釣り合いな桜色の長い髪をかき上げ
少女はおもむろに席を立つ。
ガタン、と真っ赤な椅子が音を立てたのを合図に
後ろに控えていた少年が慌ててドアを開けた。
「ケイマ!雪洞・F・ケイマ!!
逃げるおつもりですか!」
どよめきと共に金切り声があがる。
重く大きなドアを支えるフットマンの少年が
怯えたように主人の少女、改め雪洞(ぼんぼり)の顔を見た。
原告席に居た中年男性が
ひび割れた声で怒鳴った。
「あなたの作った機械、篝(かがり)のせいで
うちの息子がおかしくなってしまったんだぞ!」
雪洞は少しだけ首を動かして横を見遣る。
男の指差す先では、ほろほろと涙を流す女性に肩を抱かれた少年が
呆けたように口をぽかんと開けて天井を見つめていた。
そうだそうだ!
さっさと慰謝料を支払え!
観客、ではなく傍聴者からも
痛烈なヤジが飛ぶ。
古代ギリシャの円形闘技場のような裁判室を、
雪洞はぐるりと見渡した。
そしてくすりと笑って後ろを振り返ると
宣戦布告する武将のごとく高らかに腕をあげて言い放った。
「なんとでも言ったら良いわ。あんたたちの魂胆は分かってるのよ」
――おいおいおいおい!
少年が顔を青ざめる。
幸いその声は更に高まる群衆の声にかき消された。
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