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旧都大学の図書館に本を返しに行く途中。
神社仏閣がところ狭しと立ち並んでいる歴史ある街並みは、猛暑のお陰でゆらゆらと立ち上がる蜃気楼の中に揺れて見える。
古びた民家の前で打ち水をしている人も見受けられるが、打った水がコンクリートに触れた瞬間物騒な音を立てて蒸発してしまうんだから性質が悪い。
かつて栄華を誇ったであろう美しさの名残がある国内最大級の都は、暑い夏でもゆったりとした雰囲気で悠久の時を刻み続けているはずなのだが、いくら趣きのあるこの街もさすがにその効力を失いつつあるようだ。
アパートから旧都大学までは、自転車を走らせておよそ20分かかる。
切った風すら暖かいという最悪な気分で旧都大学の図書館を目指していた。
吉野川にかかる御吉橋(おんきちばし)を三分の一程渡った辺りで僕は久しく、若い舞妓を見かけた。
こちらにちらと視線を移してわずかに微笑んでみせた。
歳は高校生くらいであろうか。
赤を基調とした美しい着物におしろいが塗られた小さな顔がどこか初々しさを感じさせる姿であった。
彼女らは暑いときも寒いときも顔色ひとつ変えずに優雅に歩を進めている。
なかなかお目にかかることのできない姿を見ると、なんだか得した気分になった。
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