星に願いを

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驚く程に大人しくついてきた氷呂を連れて自室の扉を開くと、暖かいはずの室内からは少しだけひんやりとした空気が流れてくる。 タイミングが悪いのか良いのか、同室者は出掛けて部屋にいないらしい。 「すぐにあったかくなるから、その辺に座ってろ」 「ん」 言葉少なげに頷く氷呂に首を傾げながら、リビングのエアコンの設定温度をMAXにして、ついでに床暖房も入れる。 コーヒーでも淹れてやろうとマグカップを出していると、背中に緩い衝撃が当たりそのまま後ろから抱き付かれた。 「木崎?」 「うー…」 ぐりぐりと背中に頭を押し付けられ、振り返って同じように抱き締めると目を閉じて腕のなかでじっとしている。 「木崎」 「んー…」 自分の方へと顔を向けさせて、軽く啄むように唇に触れても逃げる様子がない。 二度三度と繰り返した軽い口付けが徐々に深くなり、差し込んだ舌で口の中を撫でると一瞬だけ小さく体が跳ねたが、きゅっと上着を握り同じように舌を動かし応えてきた。 「ふ、ぁ… …んぅ」 「木崎」 「ん…ふぁ」 まだ少しだけ冷たい頬を掌で暖めながら、柔らかい舌を絡め取って吸うと甘えたような吐息が重なった唇の隙間から漏れる。 「ぁ い…せぇ?」 口付けたまま体を抱き上げ、用意していたコーヒーをそのままにベッドのある個室の方へと無言で早足に向かった。
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