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「まあ、お前が五光に何をやったのかは今は言及せずにいてやる」
「何で上から目線…」
「ひとまず今は、お前を追ってる奴らが諦めるまで匿ってやるから有難く思えよ」
丁度ベッドもあることだし。なんて、不穏でしかない単語に思わず体が後ろへと逃げる。
今、この部屋で伊瀬と二人きりで過ごすのと、廊下へ逃げて再び追われるのと、どちらがより危険だろうか。
……ところで。
「また、伊瀬は保健室でサボリですか」
伊瀬に引き込まれたのは保健室。どうやら保健医の鳥居は席を外しているらしく、安心できるはずが無い。
「昼休みに仮眠とってたらいつの間にか放課後になってなー」
「あなたそんなに休んで卒業出来るんですか」
「なに?心配してくれてんのか?」
まるで、自分の部屋のように勝手にコーヒーを淹れて寛ぐ伊瀬にため息しか出ない。
「飲むか?」
「結構」
「折角茶菓子もあるのに」
ぷいっと顔を逸らした氷呂の目の前を、ヒラヒラと小さな箱が揺れ、視線で追いかけた先のベッドの上に同じような箱がぎっしりと詰まった紙袋が置かれている。
「…茶菓子?」
「貰った。食うか?」
「チョコレート、たくさんあるじゃないですか…私にまでたからないでください」
「お前からだから意味があるんだろうが。妬くんならもっと可愛く拗ねてみろ」
「妬いてませんが」
紙袋の中から適当に取り出した箱の包み紙を破り、見せ付けるように中身を一つ取り、甘い香りのするそれを氷呂の口元に近づける。
「ほらこれ、有名ホテルの、バレンタイン百食限定チョコだってよ」
「…」
「そんなに甘いのは好きじゃないんだが、腐っても勿体無いし、食うか?」
ちらちらと視界を横切るチョコを目で追い。
きゅるるる。
静かな部屋に、小さくお腹の音が響く。
全力疾走で消耗した所為だ…
「…食うか?」
「…いただきます」
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