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「旨いか?」
「…おいしいです」
「これはガナッシュをホワイトチョコで包んである…こっちはプラリネ、アップルシナモンフレーバー…ラムレーズン」
箱のなかに入れてあった解説の紙と見比べながら、伊瀬に次々と手の上に乗せられるチョコを口に運ぶ。
「…レーズン。美味しいです」
「んじゃあもう一個」
むに。と、唇に押し付けられたチョコに口を開けると、そのまま口の中へと放り込まれた。
不本意だが、高いチョコなだけあって美味しい。
「こっちはオレンジ」
気のせいか、さっきからどうもペットに餌をやる扱いをされているような気がしてならない。
そして、口の中の甘さに頭がふわふわとしてくる。
「木崎、あーん」
「…おしつけないでください」
抗議に開いた口に、すかさず放り込まれるオレンジの味。
「もの食ってる口ってなんかエロいな」
ココアパウダーのついた唇を指先で拭いながらぼそりと呟かれ、いつの間にか触れそうなぐらい近付いてじっと顔を覗き込んでいた伊瀬の顔を押し返すと、
何が面白いのか喉の奥で笑い、チョコが入った箱を渡される。
「なに笑ってるんですか」
「いや、まさか木崎がバレンタインチョコを貰ってくれるとは思わなくてな」
「はあ!?」
「今日、チョコ貰っといてなんの意味もないとでも?」
「き、今日のチョコに意味があると言うなら、そのチョコは貴方が貰った物を横流ししたものでしょうが。そんなものに意味はありません」
「…チッ」
不貞腐れた様に舌打ちをされ、再び伸ばされた手から逃げる為に伊瀬から離れた場所の椅子へと移動し、腰を下ろす。
暖房のせいか、さっきよりも頭がぼんやりとする。
「木崎」
「…なんですか」
「ちょっと顔が赤いぞ」
「赤くありません」
「自分じゃわかんねーだろ」
「あか…」
あっさりと距離を詰められて、文句を言おうとした言葉が、途中で途切れた。
目の前の視界いっぱいに伊勢の顔がアップになり、なったと思った途端あっという間に離れていく。
「熱くはないな」
と呟いた伊瀬の言葉に、額で熱を測られたのかと理解した。
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