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「今は…あまり重いものは入らないですね…」
「じゃあ桃缶でも開けてやろう」
「はあ…」
そう言って部屋から出ていく前に楽しそうに鞄からサイドテーブルに置いた小さい箱はおそらく風邪薬か。
普段からメイドや使用人に至れり尽くせりを受けている璃王としては、誰かの世話をやく事が物珍しくて楽しいのだろう。
「知っているか?桃缶の方が生の桃より栄養価が高いんだってよ」
「へぇ…?」
ガラスの器に盛り付けた桃をフォークに刺して、どこで聞いたのか蘊蓄を披露する。
「あーん」
「は!?」
「なんだ」
一口大に切られた桃をフォークに刺して、何の躊躇いもなく唇に押し付けられ、思わず間抜けな声が出てしまった。
「自分で食べますよ…?」
「駄目だ。看病の時はこうやって食うのが作法だ」
「誰に聞いたんですかそんな無茶苦茶」
「眞城」
「眞城………」
ついつい溜め息をついてしまったが、自分は何も悪くない。
「一回食わせたら満足するからやらせろ」
「…単に一度やってみたいだけなんですね…」
「あーん」
「…あ」
引き下がる様子もなく、唇に押し付けられ少し潰れて形が変わった果肉を、もう少し口を大きく開いて迎え入れる。
よく冷えた甘い果肉は舌の上に心地よく、とろりと口の中で溶けた。
「…あまい」
あまったるくて、頭痛がしそうだ。
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