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『あぁ、上がったんだ。来なよ、珈琲かなんか出してあげるから。』
そう言って手招きすると、多少渋々といった様子で、少年はカウンター席に腰を降ろした。
『紗矢ちゃん、この子誰なの?もしかして、彼氏君とか?』
『違う違う、雨の中ずぶ濡れで店の前に座ってたから、風呂貸してただけ。』
ママの問いに即答して、少年の事を説明する。
そういえばあたし、これだけしといて少年の名前聞いてないな…。
『ねぇ、君、名前は?』
『……。』
少年は黙ったまま。
『坊や、素直に言った方が良いわよ?じゃないと、耳の穴が左右2つずつになっちゃうから。』
ママの言葉と同時に、ビリーが少年のこめかみに拳銃を突き付ける。
『…亜久津、仁。』
流石の少年も驚いたらしく、戸惑いながら口を開いた。
『仁…良い名前。』
『あら、名前の方紗矢ちゃんに取られちゃった。じゃあ、私はあっくんって呼ぼうかしら。』
仁はあたし達の話など聞いていなかった。
『…ビリー、脅しはもう良いから。』
『おっと、すまんな。こんな新鮮な反応は久し振りだったんで、つい面白がっちまった。』
と言って、ビリーは拳銃を仕舞った。
実を言うと、あの拳銃はただのライターで、ビリーのお気に入りらしい。
『ここでは、嘘や隠し事はNGですよ、亜久津君。私も他の3人も、真実を語る者しか受け入れない。その代わり、ここでの話が外に漏れる事は一切ありません。』
『そういうこった。まぁ、よろしくな、にぃちゃん。』
仁が、会釈というよりは頷くような感じで首を縦に振る。
うん、とりあえず受け入れて貰えそうだ。
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