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しばらく沈黙が続いた。
仁もあたしも、お互いに視線を逸らさない。
悩んでいるのか、言い出しにくいのか、仁の眉間にはずっとシワが寄っている。
そして、最終的に沈黙を破ったのは、何処か覚悟を決めた様子の仁だった。
『はぁ…仕方ねぇな…良いぜ、あんたらと一緒に、俺も4人の秘密ってやつを背負ってやるよ。』
『えっ…?』
あっさり受け入れた…。
この子、本当に一般の中学生?
普通なら、怖がって即店から出ていくのに…。
『君、平気なの…?』
『一瞬迷ったがな…ただ、あんたらみたいな人間が、意味もなく自己満足で他人を傷付けるようには見えねぇ、そう思ったんだよ。』
へぇ…やっぱりこの子、面白い。
今までの時間で、そこまで分かったんだ。
そう、あたし達は自己満足の為なんかで仕事はしない…代行人だ。
自分じゃ出来ないから代わりに恨みを晴らしてくれって人から依頼を受け、お金を貰って仕事をする。
『良かったじゃない紗矢ちゃん、理解してくれる子がいて。』
『うん、そうだね…まさか中学生に理解されるとは思わなかったけど。』
ママに言われて返事はするものの、何故か素っ気なくなってしまう。
実際は嬉しいんだけど、それをどう表したら良いのか分からない。
小さい頃に両親を亡くし、親戚中をたらい回しにされてきたせいで友達も出来ず、ずっと1人で生きてきたあたしの感情表現という機能は、いつの間にか錆び付いて、使えなくなってしまったらしい。
『安心して下さい、亜久津君。紗矢さんは、あれでも喜んでいますから。』
『あぁ、分かってる。』
そう言って仁はあたしの方に向き直り、小さくフッと微笑んだ。
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