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――西暦・20××年
東京都某区
現在ではほぼ廃墟と化した、第一校舎の古びた体育館裏。この無駄に広い敷地一帯は、いわゆる由緒正しい"伝統校"で、今じゃすっかり珍しい木造平屋のこの建物は、歴史的建造物に指定されており、生徒さえも中に入ることはできない。
そこだけ止まった時間のなかで、静かに、しかし確かに、少女たちの日常は今日も繰り広げられていた。
「お前うざいんだよ」
「うっ……!」
数百年の歴史を持ち、数多の有名人を輩出するこの女子校で輝かしい未来を拓こう。
創立時から謳われているこの校訓は、この場所を"制裁"に使う彼女達にとっては、形ばかりのものでしかなかった。
何故かって? 答えは簡単だ。ただぼんやりと時間を浪費するだけの彼女たちの日常に、過去も未来も無関係だからだ。
お金も、流行の洋服も、何もかも。
手を伸ばさずとも、望めば手に入る退屈な日常のなかで、今、こうして不安定に揺れ動く感情だけが、彼女たちを動かす確かなものになっていた。
「……、ちょーうける」
砂に汚れたセーラー服、落書きだらけのカバン。そして腹を抑えうずくまる少女を囲む、また同じ制服に身を包んだ少女達。その光景は、所謂大人達に見つかればただ事では済まされないもので。
「やめ……!」
畠山マナカが消え入りそうな声で、抵抗か懇願か分からない声を上げる。もう、ずっとこの調子だ。自身を庇うようにしてうずくまっている。
「ちょっと突き飛ばしたくらいでピーピー泣いてんじゃないわよ」
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