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しかし、僕らが安住の地を手に入れても、社会は混沌の渦に飲まれたままだった。ありとあらゆる電子機器が使えなくなり、電気やガス、水道もストップしてしまった。長い歴史を通して築き上げられた文明の暦は、一日にして崩落した。
だが、最近ではその崩落も次第に衰え始め、無名だった新興企業が開発した新しい技術、“マイクロギア”によって、ライフラインや通信手段についてはほぼ復旧は完了したそうだ。
マイクロギアの齎した影響は凄まじいもので、僕の持つ携帯も、茶の間に置かれたテレビも、今やその技術を応用した物で作られているのだ。
「何見てるの?」
自分の世界に浸っていると、突然声がして現実に引き戻された。目の前には、唯一の身内であり僕の妹の、夜杷美奈(やえば みな)が僕の顔を下から覗き込んできた。
僕がそれを鬱陶しそうに避けると、彼女は不満そうに頬を膨らませた。
「美奈にだって見せてくれたっていいじゃん!」
美奈が大声を出す。周囲の目線がこちらに集まっているのが分かる。
仕方なく僕は手に持っていた雑誌を妹に見せた。妹は開かれたページを三秒ほど見てから、「なんだ、つまんないのー」と言って、残念そうに視線を前に戻した。
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