15人が本棚に入れています
本棚に追加
「おー。」
「そうだな。」
懍は2人の返事を聞いて松本を見た。
中等部上がりは、大抵友達と一緒にいる新入生。
それに加わらない松本は、懍達が行ってしまえば1人になってしまう。
松本はそれを意にも介さない様に早く行けと言うが、懍はその裏にある寂しがり屋な松本を知っている。
しかし、懍はそろそろ行かないとスピーチのリハーサルに間に合わないのだ。
「…………やっぱなし、拓海と棗は残ってろよ。私だけ先行くから。」
懍は有無を言わさずに走り出す。
おそらく、あの2人なら懍の意図する所を分かってくれるだろう。
松本を、昔のあんな状態から立ち上げるのに協力してくれた2人なら。
「……まったく。気まぐれですね、懍さんは。」
「過保護なんだよ、過保護!」
「過保護っていうか…、優しいんだよ。」
松本の呆れた声に棗が返して、それに拓海が肯定するように笑う。
きっと素直になれないだけで松本も感じてる。
懍の不器用な優しさと、弟の様な松本を想う温かい気持ちに。
懍の周りに人が絶えないのは、そんな懍に救われたり、懍を信じる人が多いからだ。
言動を軽んじず、決して誰にも甘えない強い人。
「優しい…ですか。勝手に人の家来て、無理矢理高等部来る様に親を丸め込んだあの人が。」
「あはは。それも、ある種の優しさだよ。」
中等部から友達の少なかった松本を高等部まで連れてくるのは酷かもしれない。
それでも、奴の面倒は最後まで見てやりたい。
そう言って松本の家へ向かった懍を、2人は知っている。
「さぁてと。どうする?俺的には始業式サボりたいんだけど。」
「棗先輩はどーせオンナでしょ?遊び過ぎは捨てられる原因ですよ?」
「うるせぇなー。俺は女の子を平等に愛したいのっ」
「うわ、遊び人…。」
こんな掛け合いも、懍がいなければ実現しなかった。
そう考えれば、思わず笑みが零れてしまう拓海だった。
.
最初のコメントを投稿しよう!