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─────始業式───────
「えーっと……。うん、台本忘れた。」
始業式は、2年で1番頭の良い女子生徒の、前代未聞のこの言葉から始まった。
「あちゃー。」
「ばっ…、懍の奴……っ」
ざわつく講堂の空気に、拓海と棗は頭を抱えた。
あれは懍の悪い癖だ。
誰が見ていようと、大勢の前に立とうと、緊張感の欠片もない。
「御舟の野郎…、やってくれるじゃねぇか。」
「あ、富永!」
「誠人先生、どうしますか?」
「ひとまず、俺が静め…」
「…………なーんてな。冗談だっつの、ちょっと黙れって。」
それぞれが行動を起こそうとしたその時、少し馬鹿にしたような懍の声が壇上から降ってきた。
その声に、ざわついていた講堂からざわつきが消え、代わりにクスクスという笑い声が少し湧く。
「んー。静かになったかー?」
釘を刺す様な一言に、講堂は静まり返った。
笑い声も、もう聞こえない。
拓海と棗、富永の3人は舞台袖まで来て懍を見ていた。
3人以外は誰も気付いていないだろうが、懍は今、暗に静かになるように誘導したのだ。
「じゃあまず、私の名前から…。附属上がりは知ってんな?御舟懍だ。」
こんな言葉遣いだが、れっきとしたオンナだからな。
その付け加えは、静かだった講堂に笑いを誘った。
「……んじゃ、台本通りじゃつまんねぇから、言ってやるよ。」
懍は少し間を置いて、ニコリと笑った。
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