にゃんにゃん

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拓海はその真面目さから、周囲から過度な期待を抱かれる事が多々ある。 その期待は拓海にとって重荷でしかなく、拓海は一度潰れかけた事だってあるのだ。 「しゃーねーな。前半グループは俺が付いてくからなー。」 懍の考えを読んだかの様に、富永が進言する。 何も知らなければ別になんともないが、懍には分かっていた。 ………ありがと。 口パクで、富永は察してくれた。 富永は分かっていたのだ。 そんな拓海の事を、そしてそれを案ずる懍の事を。 「じゃ、前半グループは出発してくれ。」 懍の声に僅かな安堵が混じっていた事は、懍と富永しか知らない。 「………あの。」 「……あぁ、あんたか。何か用?」 隣の席の…。 あぁ、そうだ。 村上 雫(ムラカミ シズク) だったな。 教卓で頬杖をついて欠伸をしていた懍に話し掛けたのは、相変わらず敬語な村上雫だった。 「…そういう、いい加減なのは……止めた方が良いと思います。」 いい加減…ね。 何様だろ、こいつ。 それまで努めて笑顔だった懍の顔が、僅かに凍った。 「たとえば?」 教室が静まり返る。 まだ笑っている。 でも、先程までの温かさは微塵も感じられない。 「えっ…。」 「だから、私がいい加減にやってるって根拠は?実例があったから、あんたはそう言った訳じゃん?その実例は、なに?」 懍の笑顔に、少し亀裂が入る。 .
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