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「………はよーございまーす…。」
「おはよう、懍。」
「遅ぇよ姉ちゃん。始業式遅刻しちまうだろ。」
「…………黙れ彰太(ショウタ)。父さん、今日は仕事ないんしょ?彰太の事、学校まで送ってやったら?」
懍は寝癖を直し、ラジオのスイッチを押す。
懍の好きな俳優のラジオ番組を耳に入れながら、懍はてきぱきと髪を結っていく。
「えー…。彰太、送って欲しいか?」
「いいよ、別に。友達と行く約束してるし。」
「だってさ!だからパパさんはお家で大人しくお留守番してまーす。」
懍はその言葉を最後まで聞かずにリビングから出ていった。
「………あのくそ親父…っ」
懍は整えたばかりの髪をがしがしと掻き回す。
いつもあんな調子の父親と、その父親を意識すらしてない弟が頭にくる。
父親は母親の再婚相手で、まだ20代半ば。
弟は血の繋がった1歳年下。
「……母さん…。」
今はロサンゼルスにいる母親は、国際的なデザイナーだ。
懍の高校進学を誰より喜んでくれた母は、懍の傍にいない。
「ま、いっか。…てか…やべっ、今日ってたしか…っ」
懍は中身が空っぽのスクバを肩に担いで玄関に向かった。
たしか、新入生に挨拶してもらうとか言ってたな…。
懍は短いスカートを意にも介さず走り出した。
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