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「……。」
「無視かよ。さっきの言葉通り、随分と態度でかいな?」
「違…っゲホッゴホゴホッ」
「は?…おい、どうした?」
いきなり咳をし出した村上に驚いて、柄にもなく狼狽えた声を出してしまった。
でもすぐに冷静に戻って、苦しげに喘いでいる村上の頭を起こす。
明らかに平熱なんかじゃない熱が手に伝わり、懍は顔をしかめた。
「なんで言わない?保健室行くから、ほら立て。」
熱を持った体を立たせようとするが、力が抜けてすぐにへたりこんでしまう。
「いいですか…っゲホッ」
「いいですからぁ?馬鹿か、お前ぇ。……ったく、貸し1つな。」
懍はそう言って村上を横抱きにした。
到底男とは思えない軽さに驚きながらも、ゆっくりと歩き出す。
「非常通路通るからな、ちょっと寒くても文句言うなよ。」
見られて何か言われるより、寒い方がましだろ。
懍はそう考えていた。
針金なんて持ち合わせてなくて、名札の針で鍵穴を抉じ開ける。
ピッキングなんてものは、素人でもやってみれば出来るものだ。
懍は素人でもなく、むしろ玄人だったため、10秒とかからずに鍵穴の回る音がする。
「……さみ。」
重い扉を開け、非常階段に出る。
扉にピッキングし直してバレない様に細工をすると、懍は殺風景な中、1階まで降りていく。
「………っ寒い…っ」
「!」
ひときわ強い風が吹くと、短めのスカートが際どい位置までめくれあがる。
でも、はっきり言ってそんな事を気にしてなんていられなかった。
「………もう少しだから、ちょっと私にしがみついてろ。」
寒い。
村上はそう言って震えた。
当たり前だ。
熱があって辛いのに、私が余計に辛くさせた。
「…………少し走るから、辛かったら言えよ。」
少しでも早く保健室に連れていきたくて、懍は歩む足を少し速めた。
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