わん

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「ハァハァ…、ゲホッゴホゴホッ…ゲホッ…。」 「ちょっとぉ?病人を無造作にベッドに放り投げるってどういう事ぉ?」 「うるせぇな。こちとら急ぎなんだよ。」 「駄目よぉ?だって懍ちゃんも足首捻ってるみたいじゃない。」 げ…。 「相変わらず目敏いねぇ。」 懍はベッドのカーテンを閉めると、苦笑しながら靴下を脱いだ。 まず最初に目に止まるのは、鮮やかな朱。 それは鳳凰という名の鳥。 「やっぱり鳳凰なのね、懍ちゃんは。」 「……村上に聞こえる。」 左足に刻まれた刺青は、空を睨む鳳凰。 自分は曲がりなりにも鳥であり、空を羽ばたけば大地も揺れる。 そう、思っている鳥。 古い寺社に鳳凰があるのは、鳳凰が王であると考えていたから。 その考えは、きっと今でも変わらない。 ただ。 「朱の鳳凰は、黄金から錆びた鳳凰だよ。」 錆びてしまったがために、羽ばたく事も、歩む事も出来ない哀れな鳥の姿。 それが、懍の左足にはあるのだ。 「……わ、腫れてる。何処で捻ったの?」 「非常階段。」 「って、あそこは立ち入り禁止…。」 「…知ってる。」 懍は無表情に足首を眺めていた。 この鳳凰の様に、いつか自分にも錆びという最期が来る事を、懍は知っている。 「はぁ…。湿布だけ張って、後はあの子の傍にいてあげなさい。」 「…別に、あいつは私にいて欲しくないと思うけど。」 「いいからっ」 懍は首を傾げながらも、湿布だけの処置を済ませ、ベッドの横の椅子に腰掛けた。 .
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