第6章 カワルミライ

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――3:44 PM―― そろそろ電車が来る時間だ。俺はベンチから立ち上がる。耳が痛くなる警告音が鳴り、アナウンスが響く。上り列車がやって来る。 俺はこの時にやって来たんだな。ふと気付いたが、俺の右手には切符が握られている。周りには数人の若者がいる。携帯をいじって俯いている者。耳にイヤフォンを差し、足でリズムを感じている者……。あの時と、全く同じ状況だ。 「裕也くん、電車来てるよ。早く乗らないと」 凛は俺の背中を押し、ほとんど無人の電車に押し込む。冷房が効きすぎているような気がするけど、暑いよりはマシだ。 「なぁ、これから服を買いに行くので間違いないのか?」 「うん。でも、気が向いたら他の所とか寄るかも」 電車は少しずつ加速していく。全く同じ景色を、俺は72時間にも見ている。 「楽しみだな~!」 対面式の座席で、凛は俺の真っ正面に座っている。彼女は体を左右に揺らしながら、足をバタバタさせている。靴を買う時は、そこまでしていなかったな。 「裕也くんも選んでね」 「もちろんだ」 どうせ逆の方を選ぶんだろうけどな。 数十分間乗り、目的の駅に到着する。そこそこ大きな駅だし、近くにはたくさんの商業施設があるから、連日超満員らしい。 電車を下りると、改札口へ向かう。切符を改札機に投入し、駅構内へ。人の流れに沿っていると、外へ出た。凛は人波に飲まれながらも、俺の傍までやって来る。 「凛、早速行くのか?」 「もちろんだよ。早くここから離れたいしね」 凛の言う通り、人が密集しすぎていてかなりの暑さだ。早く涼みたい。
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