第6章 カワルミライ

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――8/5(金) 9:13 AM―― 安らかな俺の安眠を妨げたのは、翔馬からの電話だった。最近、彼から電話がよくかかってきているような気がする。 「モーニングコール、ご苦労様です」 『アホか。……1つお前に頼みがあるんだが、構わないか?』 翔馬の声は沈んでいる。ふざけて相手をしてもいい様子ではない。 『しばらく、凛の傍にいてやってくれないか?』 翔馬は昨日の写真の件について、まだ気にしているようだ。俺もなぜ凛だけが消えたのか、ずっと気になっている。彼女の身に何かが起こるのだろうか。例えば、どこか怪我をしてしまったり……。 「だからさ、勘違いだって。気にしすぎだよ」 俺は昨日から『気にしすぎ』と何度も言い聞かせている。最悪の事態を考えたくないからな。 『何か起こってからじゃ遅いんだぞ! 頼む!』 翔馬が頭を下げているのが、電話越しでもひしひしと伝わってきた。なぜ彼が、そこまであの写真に執着しているのか、今の俺には理解できなかった。 結局俺は、根気負けした。翔馬は外せない用事があるらしく、今日は俺達とは会えないらしい。通話を切り凛に遊べないかとメールを送る。すぐに返信が返ってきた。構わないとの事だ。 ――11:36 AM―― 凛がやって来る。彼女に翔馬が昨日の事でかなり心配していると伝える。 「やっぱり、翔馬くんは優しいな」 「俺は?」 「いきなり呼ばれてもさ、する事無いよね?」 「だから、俺は?」 「そうやって、無理矢理聞き出そうとするのは、あんまりよくないと思うよ。……今のはあたしの独り言だから気にしないでね?」 俺の透明で濁りの無いハートに、ヒビが入ったような気がした。なるほど、凛は俺をそう思っていたのか……。 「でも、裕也くんは好きだよ」 「それってどういう意味で……」 今のって告白なのか? いやいや、そんなはずはない。俺達は付き合ってるんだからな。そう、今のは<瀬川裕也>という1人の男が好きという意味じゃなくて、古くからの彼氏として好きという意味だ。俺、照れてんじゃねぇよ!
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