第6章 カワルミライ

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凛は集中治療室に入った。生死の境をさ迷っていて、いつ息を引き取ってもおかしくない状態だそうだ。 彼女が事故に遭ったのは、見晴らしのいい交差点。青信号になって渡ろうとした所、信号を無視して青い乗用車が突っ込んだらしい。まだ間に合うと思ったのだろう。打ち所が悪く、凛が倒れる際に頭を強打し意識不明の重体。 俺と翔馬は、集中治療室をガラス越しに中を覗いている。広々とした空間だが、1台の大きなベッドと医療機器で、本来より狭く見える。 「このままじゃ、俺のせいで凛が……」 ガラスの向こうでは、ピクリとも動かない凛。このまま目を開けてくれないんじゃないか。そう思えてきた。俺にとって一番大切な人が、いなくなってしまうかもしれない。 「裕也、落ち着け。そんなに自分を責めるな」 「何で翔馬はそんなに落ち着いてられるんだ? 何とも思わないのか? 友達とか親友とか彼女とか、一言で言い表せないくらい大事な……」 大切な大切な、一番付き合いの長い人が、生死の境をさ迷っているのだ。そんな時に翔馬は、いつもと同じような態度。さっきから俺はそれが気に入らなかった。 「そんな訳無いだろ!? 今は取り乱している場合じゃない! こういう時こそ冷静になるんだ」 翔馬の言うのは確かだ。だが俺は、落ち着いてなんかいられない。 「今日はもう帰ろう。明日来よう」 「帰りたければ、翔馬だけ帰ればいい。俺は凛の傍にいる」 凛が目を覚ました時に、誰もいなかったら寂しいだろうからな。 医者に無理を言って、俺は一晩中凛の傍にいた。彼女の目が開く事も、俺の呼びかけに反応する事もなかった。 「……寝てたのか」 気付けば俺は寝てしまっていた。凛はまだ眠っている。夕飯を食べるのがかなり早かったから、お腹が空いている。何か胃に入れておかないと。
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