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――8月6日(土) 7:06 AM――
朝の病院は、とても静かだ。売店はまだ閉まっている。一旦家に帰ってから、もう一度来よう。
俺は凛に別れを告げると、病院を後にした。
――7:38 AM――
こんな時間に帰るのは、生まれて初めてかもな。アパートの住人が、ちらほらといる。庭先を掃除していたり、談笑していたり。
部屋に戻り、ソファに吸い込まれるようにして、深く座る。
「くそったれっ!」
俺はありったけの力を込めて、ソファを殴る。もう一度。そしてもう一度。
「くそっ、くそっ! 一緒にいておきながら!」
彼氏失格だ。俺は凛と一緒にいる資格なんて、これっぽっちも無かったんだ。だったら、翔馬の方がずっといい。
「俺のせいで……!」
両親が死んだ時は、しばらく俺は誰とも口を聞かなかった。ずっと部屋の隅で丸くなっていた。今はその時と同じか、それ以上に辛い。
「できるなら、お前と変わってやりたいよ……」
俺の右手は血で赤黒く汚れている。腫れも酷く、手が思うように動いてくれない。気付けば、部屋の中にある物がめちゃくちゃになっていた。
「な、何があったの!?」
山田の声が飛び込んでくる。それでも俺は、彼女の声を気にせず、ただ暴れるだけ。自分に対する怒りで、部屋を荒らすなんてな。俺自身、こんな事をしても何の意味も無いって、分かっているんだ。けど、自分の気持ちを抑えられない。
「いい加減やめなよ!」
山田が俺を羽交い締めにする。だが所詮、女性の力だ。俺は彼女の腕から逃れて、動きを止める。
「何があったの?」
「お前には関係ない! 帰れ……」
こんなみっともない姿、もう見られたくない。凛が見てたら、どう思うんだろうな。笑うのかな?
「これ、どこにあったの?」
「はぁ?」
振り返ると、パジャマ姿の山田がアルバムをじっと見ている。帰れと言ったのに……。
「俺はいいから、帰るんだ」
「どこって聞いてるんだけど?」
「あそこのカラーボックスです」
山田は何も言わず、部屋の掃除を始めた。
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