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『朝から、何の用?』
凛の声を聞いて、俺は安心した。彼女はまだ起きたばかりのようで、上手く舌が回っていない。パジャマ姿で目を擦っている凛の姿が、思い浮かぶ。
「暇か?」
『うん、暇』
「こっちに来てくれないか?」と言おうとしたが、口をつぐむ。彼女がこっちへ来るのも危険なのだ。翔馬からの電話が無かったのだから、今までとは違う。なぜ変動したのか分からないが、彼女を1人で出歩かせるのは危ない。
「迎えに行ってもいいか?」
『別にいいけど……。もうちょっと後にしてほしいかも』
「分かった。俺がそっちに行くまで、絶対家から出るんじゃないぞ!」
『……は~い』
通話が切れる。なんだか不安になってきた。寝惚けたまま、外へ出ていってしまいかねない。俺がどんな意味を込めて言ったのか、彼女は理解していないだろうし。早く用意して行くとしよう。
――10:32 AM――
「さて、行くか」
財布と携帯、それにカメラ。いや、カメラは必要ないか。今度こそ凛を守ってみせるからな。とりあえず、これだけあれば十分だ。財布には、この間当てた4等の賞金が入っている。どこか食べにでも行こうかな。
マックにしようかな~、とか思案していると、ドアをノックする音が俺の耳に届く。
「は~い」チェーンを外し鍵を開ける。その瞬間、ドアが勢いよく開き、誰かが俺の胸に飛び込んできたのだ。
「うぅ~、久しぶりだ~!」
そいつは俺の胸で頬擦りする。男なら問答無用で投げ飛ばしてやるが、生憎女性。髪からは淡いシャンプーの香りが漂っている。
だが彼女もそこまでバカではない。目的の人物ではないと気付き始める。
「マコちゃんは、こんなにぺったんこだっけ……」
しばらく彼女は固まり、おそるおそる顔を上げる。
「人違い、でしたね?」
いくら可愛く言おうとも、俺は決して萌えないからな。上目遣いで言われたとしても。俺は彼女の肩を掴み、部屋から追い出す。
「無視しないでよ~!?」
「俺は急いでるんだ。お前の会いたい人って、ここの隣だと思うぞ? じゃあな」
振り向き様に右手を上げ、左手をポケットに突っ込み階段を下りる。決まったな。
にしても、可愛かったな……。
俺は駐車場で、見馴れない青い乗用車を見た。
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