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自転車を走らせながら、早く冬になってくれないかと思う。地球温暖化が進むと、人類にとってメリットは何かあるのだろうか。今なんか暑すぎて、皆部屋に籠ってしまっている。
閑静な住宅街の一角に、凛が住んでいる家がある。凛だけではなく、両親も。
ご両親に彼氏と間違えられないだろうか。と言うのも、ここにやって来るのがかなり久しいからだ。一目で俺と分かってくれないかもしれない。それだけ大人になったという事だ。
――11:05 AM――
インターホンを押すと、「はいは~い」と言いながら、凛ママが顔だけ出す。
「あらあら、裕也ちゃんじゃないの~」
凛ママの僕に対する呼び方は、今も昔も変わっていない。昔は3人でよく、この家で遊んでたな。
「凛に用事かしら~?」
「そうです」
語尾を伸ばすまったりとしたしゃべり方も、全く変わっていない。おっとりとしたお母さんだ。
「ちょっと待っててちょうだいね~」
「彼氏が来たわよ~」と、凛ママは振り向き様に言う。分厚い扉の向こうから、「違うわよ!」と照れながら凛がやって来る。
「案外早かったのね」
「会いたくて仕方無かったんだよ」
「親の前で、よくそんな事が言えるわね!?」
そりゃあ、凛の彼氏ですもんね。1分1秒でも、彼女と一緒にいたいからな。
「おばさん、しばらく凛をお借りしますね」
「どうぞどうぞ~。若いっていいわね~。私も昔は、お父さんと一緒に遊んでたわね~」
凛ママは赤らめた頬に両手を添える。昔の甘酸っぱい青春を思い出しているのか、幸せそうな顔をしている。
「後ろ、空いてるぜ?」
「結構よ。自分の自転車あるし」
いつになったら心を開いてくれるのだろうか。
「本当にいいのか?」
「うるさいわね! そこまで言うなら乗ってあげるわよ!」
俺の彼女はなかなか素直じゃないからな。昔から。
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