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長い洞窟を抜け、ようやく外に出たと思った途端に雨に降られた。旅の神は気紛れだ。
洞窟の中から空を見上げる。天を覆う雨雲は、陽光を透かす程度には薄かった。しかし、直ぐに雨が止むとは限らない。
ざらついた顎に手を当て、思案する。体力の消耗は激しくなるだろうが、雨の中このまま進むのも一つの手ではある。
次の村へは二時間も歩けば着くのだし、その間に雨は止むかもしれない。早く村に着いて休みたくもある。今までの過酷な旅路を思えば、この程度の小雨など屁でもない――が。
体を揺すると、肩から下げた麻袋の中で荷物がガサリと音を立てた。その音で心が決まった。
「お早い到着で」
宿の主人は不機嫌だった。私は恐縮して頭を下げる。野宿を覚悟していたので、泊めてくれるだけでありがたい。
結局雨が止むのを待つことにした私が、目的地の村に着いたのは深夜のことだった。雨の中を行けばもっと早く村に着いていただろうが、荷を濡らす訳にはいかなかったのだ。
ぶっきらぼうに部屋の鍵を寄越し、さっさと奥に引っ込もうとする宿の主人を呼び止め、名前を聞く。彼が答えた名には、やはり覚えがあった。
麻袋を覗いて目的の物を探し出す。宿の主人に渡してやると、訝しげだった表情がほろりと柔らかく歪んだ。
「……ありがとう」
その手には、膨らんだ白い封筒が握られている。それはきっと、大切な誰かからの手紙なのだろう。
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