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酒場にあった空樽を友人であるバカが拾ってきた。バカは胸を張って言った。
「手紙を入れて海に流そう」
「そりゃ瓶でやるものだ。樽なんてデカ過ぎる」
俺が半ば呆れながらそう言うが、バカはメゲない。
「じゃ、自分のお気に入りの物を詰めよう」
他の子供達に伝えるべく、バカは走り去ってしまった。その背中を見送り、俺は溜め息をついた。
結局、村中の子供が樽に物を入れた。俺もその一人だった。大小様々な物が樽に放り込まれていき、最後の一つを樽に収めると、バカは板切れを樽に釘付けし、海に流した。
樽が見えなくなった頃、バカは涙目になっていた。
「泣くくらいなら、流さなきゃよかったんだ」
バカは答えない。俺もそれ以上は何も言わなかった。奴が樽を流した理由も涙の理由も、知っているからだ。
「いつかこの島を出て、あの樽回収しにいこうぜ」
「どこに流れたか分からないのに?」
「そん時は、見つかるまで旅を続けるだけだ。旅芸人にでもなってさ、金稼ぎながら旅を続けりゃいい」
「それいいね」
顔を見合わせて俺たちは笑った。無茶なんてことは百も承知だった。
奴と別れて家に帰ると、村長と司祭の姿があった。母さんは泣いていた。
「……次の祭は、俺の番ってこと?」
村長は頷いた。
この村の子供は島の神様のもの。年に一回の祭で、誰かが生け贄として捧げられる。村の子供達の何人かは、大人になれない運命だった。
だからせめて、俺たちの愛した物よ、俺たちに代わって世界を。
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