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ノーネクタイのスーツ姿に着替えながら、真田さんは私に何度も謝る。 けれど、私が聞きたいのはそんな言葉ではない。 「本当にごめんな。美波はゆっくりしてけよ。カギは開けたままで良いから」 「うん。分かった」 「冷蔵庫のモノ食べても良いから。じゃ、行って来ます」 「うん。行ってらっしゃい」 謝って欲しかったわけじゃない。 今日は一緒にいたかった。 ブランケットありがとうって言って欲しかったし、寝てごめんなって言って欲しかったし、晩ご飯どうしようかって笑いかけて欲しかった。 結局、聞けたのは今日はもう一緒にいれないという言葉だけ。 「あ~ぁ、私がご主人様なら行かないでとか言えたのかな」 それから私は紅茶のカップを洗って、真田さんのベッドに寝転ぶ。 真田さんの匂いに涙が出そうになったのを堪える。 「……次に会えるの一ヶ月後だって分かってくれてるのかな」 寂しいのも、好きなのも、全部が私だけなような気がする。
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