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『♪♪♪♪♪~』
西棟の裏に着いた時、僕の耳にどこか懐かしく…優しい気持ちになる、そんな歌声が聞こえた…
「音楽室からか…?」
僕は西棟の3階を見上げながら、そう呟いた。
確かに歌声はどう耳を凝らして聞いても3階の窓から、僕のいる西棟の裏に響いている…。
…けど、綺麗な声だな…。
微かに聞こえるそのリズムと声だけにも僕は聞き惚れてしまった。
…いや!今はそれどころではない!!転校生が転校生くるんだ!!
「あとでまた…ここに来よう…。」
僕はそう心に決めて正門に向かおう…と思ったが。
僕の足はごく自然に不意に勝手に、西棟3階右端にある表札に音楽室と書かれた教室の前まで僕を引っ張って立ち止まっていた。
なんで…!?…まったくこっちが聞きたい!僕には転校生を見ると言う使命があるのに!何故まったく関係のない音楽室の前から足が動かないんだ!?
『♪♪♪♪♪~』
僕にはその理由がわかっていた、理由は簡単――どうしてもこの美しい歌声の持ち主の顔が転校生の顔より見たくなったから…。
しかし、僕には出来ない!その固く閉ざされた音楽室の扉をあけることが…
恥ずかしいから?――違う。
声の持ち主が綺麗ではなかったらがっかりするから?――違う
ただ単に扉が開かないから?――違う。
では、何故?…今の僕にはこの答えがわからなかった…。
「こうなったら、やけくそだ!!」
僕はそう叫ぶと、音楽室の一枚の大きな引き戸式ドアの黄金色のドアノブを力いっぱい引っ張った。
扉は思いの他、すなんなり『ガチャリ』…と言う音を静かにたてて開いた…。
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