「偽りの追憶へ」

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斜陽、赤光、 紅に染まる。 赤い、赫い教室。 いつもは明るく、 いつもは白い、 その場所がガラリと彩りを変えたから? とても異様。 とても奇妙。 そして、 何より、 鮮烈に、壮絶に、美しい。 まして、 そこに佇む少女となれば。 「未だ終わらぬ紅の刻。 はじめまして、夢見る人」 紅の刻、 紅の空間、 統べるような、 紅の三つ編みの少女。 眼鏡をかけ、気弱そうで、 その奥の瞳は、黒真珠。 気弱そうな印象に反し、 黒瞳だけ、 明けの空のような、焔を宿す。 深紅のドレスに身をまとい。 「今宵、あなたが物語を望むなら、 話してあげる。 語ってあげる。 それに、ふさわしい、 貴方が、望む衣装を身にまとい」 教室という空間に不釣り合いな、ドレス。 紅のドレス。しかし、 紅の教室では、 異界と化した教室では、 むしろ、自然で。 未紅も、自然と着こなし、 華麗にさばき、机に座る。 「誰に向かって話している、未紅?」 少女の声。 二人目の、少女。 「えっと……、 ……だれか」 「誰よ?」 「強いて言えば、あなた? ううん。 あなたの、影、 あなたの、血、 あなたの、心、 沁み込んだ、記憶の人」 「……そう」 二人目の少女は、 闇に、沈んでいる。 そこにいるのだろうか? もしかしたら、 いないかもしれない。 そこに在るようで、 本当はないような。 それは、まるで記憶のように。 「……そう。 そうね、これは、記憶の物語」 あなたが集める、血脈の物語」 紅の少女の言葉。 闇に佇む、少女の声が応える。 「わたしが集める記憶の物語」 「器に満ちるそれだから、記憶を宿す」 「記憶を宿すそれだから、新たな器をも満たす」 「それが、今夜の狂気」 「それが、昨夜の試行」 「さあ、あなたの刻。 私の紅の刻から、 あなたの刻へと移る。 夜に跋扈する、ノスフェラトゥ。 闇の帳が落ちる時、幕は開く」
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