お題:『実り』

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「梓は昔から何かあると髪を結ってる位置がズレる。 位置がズレるという事は几帳面で神経質な梓には有り得ない事だからな」 腕を組み、斎はうんうんと頷いている。 「あたしの事ちゃんと見てくれてたんだ」 思わず若槻は目がうるっとした。 「当たり前だろ? 好きな女の事はちゃんと見ている」 顔を赤らめて斎は言う。 「好きな女?」 斎の言葉が理解できず若槻は聞き返した。 「俺は昔から若槻 梓が大好きなんだよ」 顔から火がでらんばかりに、耳まで赤くして斎は告白する。 「……馬鹿」 小さくそう呟くと、若槻は下を向いた。 「また唐突に……」 若槻の言葉で斎の顔の赤みは一気に引いた。 「もっと早く言ってほしかった」 小さな声でわかつきは言う。 「あ?」 意味がわからず斎は首を傾げた。 「今日、井上くんに告白された」 斎の目を見ながら若槻は言う。 「なっ! あんのすっとこどっこい! 俺がこうやって苦労している間に抜け駆けしやがって! 説教してやる!」 カッとなった斎は携帯電話を取りだし、井上に電話しようとしている。 「待って、雅樹!」 若槻は咄嗟に斎から携帯電話を取り上げた。 「止めてくれるな、梓! あの角刈りに一言言わねば気が済まぬじゃ!」 そう言って斎は若槻から携帯電話を奪い取るようにして取りかえした。
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