12人が本棚に入れています
本棚に追加
「井上くん、気にする事ないよ」
ポンッと井上の肩に手をのせ若槻は言う。
「若槻ちゃん、慰めならいいよ」
若槻の手をそっと退かし、井上はため息をついた。
「慰めじゃないよ。
斎係長はピンチをチャンスにする男よ」
にんまり笑って若槻は言う。
「何でそう言える?」
若槻がはっきり言い切った事に対し、井上は不思議でならなかった。
「幼なじみの勘……かな」
少し顔を赤らめて若槻は答える。
「幼なじみの勘……ね。
って幼なじみなの?!」
若槻の発言に井上は驚き、目を丸くした。
「そうよ。
知らなかった?」
驚いてる井上の横で若槻は平然としている。
「知らなかったよ。
初耳だよ。
あう。
斎係長にとられるまえに若槻ちゃんに告白しなくちゃ!」
頭をぐしゃぐしゃしながら井上はでかい独り言を言う。
「え?
あたしに告白?」
井上の発言に今度は若槻が驚いた。
「ギャーッ!
墓穴掘ったぁ!」
ガンガンッと井上はテーブルに頭を打ち付ける。
その音に周りの社員達が反応し、こちらを見ている。
「落ち着いてよ、井上くん」
井上の頭突きをやめさせ、若槻は背中を摩った。
「スーハースーハー。
つまりはそういうわけだ。
俺と付き合ってほしい」
大きく深呼吸をし、痛むおでこを摩りながら井上は改めて告白した。
「あたし……」
「返事は急がないからよく考えてね。
じゃあ!」
若槻の言葉を割いて、井上は言い放つと走り去ってしまった。
「忙しい人」
慌ただしい井上を見て若槻は大きくため息をついた。
そして、ゆっくりと食堂を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!