10080人が本棚に入れています
本棚に追加
芳江は、苦渋に歪んだ顔をそらせた慎一を切ない眼差しで見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「……貴方が産まれた時、恭一さん、本当に喜んでね。良くやった、って誉めてくれた。
私は…、あの人を愛していたし、貴方が産まれて本当に嬉しかった。
けれど、私はあの人の妻にはなれない女だったから…、どうしても貴方を手元に置きたいという、あの人に従うしかなかった。
幼い頃から貧乏な家庭が嫌で、家出同然で東京に来た私は、貴方にだけはそんな思いはさせたくなくて…、
あの人は貴方と会ってもいいと言ってくれたけれど、…奥様が許して下さらなくてね。
貴方を育てるには、私の存在は邪魔にしかならないのだから、当然だけれど……」
ごめんなさい、また言い訳ね、と芳江は一瞬、鼻をすすった。
最初のコメントを投稿しよう!