春の雪

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芳江は、苦渋に歪んだ顔をそらせた慎一を切ない眼差しで見つめながら、ゆっくりと口を開いた。 「……貴方が産まれた時、恭一さん、本当に喜んでね。良くやった、って誉めてくれた。 私は…、あの人を愛していたし、貴方が産まれて本当に嬉しかった。 けれど、私はあの人の妻にはなれない女だったから…、どうしても貴方を手元に置きたいという、あの人に従うしかなかった。 幼い頃から貧乏な家庭が嫌で、家出同然で東京に来た私は、貴方にだけはそんな思いはさせたくなくて…、 あの人は貴方と会ってもいいと言ってくれたけれど、…奥様が許して下さらなくてね。 貴方を育てるには、私の存在は邪魔にしかならないのだから、当然だけれど……」 ごめんなさい、また言い訳ね、と芳江は一瞬、鼻をすすった。
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