その③

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「 パパ~、みてぇ~?」 ある日の夜。 家に帰ると、俺の可愛い姫が嬉しそうな顔でパタパタと駆け寄って来た。 「 お帰りなさい、が先でしょ?」 後から同じようにパタパタとやって来た誌乃にそう言われ、あ、という顔をした姫は、 「 パパ、おかえりなさい 」 とお辞儀する。 可愛いったらありゃしない。 ニヤニヤした顔で、ただいま、と言うと、俺は姫を抱き上げた。 そして、お帰りなさい、と笑う誌乃に、姫を抱いたまま軽くキスを落とす。 アタシもぉ~、と言う姫の頬にもキスをすると、くふ、と笑って俺にしがみつく。 1日の疲れなど、一瞬で吹き飛ぶ程の至福の儀式が終わると、俺は抱いた姫の服装に目を留めた。 真っ白の、まるでウェディングドレスのような装いは、まさしく姫そのもの。 これは?と聞くと、姫は嬉しそうな顔で、 「 あのね、シンデレラ、なの 」 と言う。 どうやら、幼稚園の発表会があるらしい。 「 そうか、君は主役か。さすがは俺の娘だ 」 その可愛い姿をじっくりと見たくて、リビングで姫を降ろし、ソファに座る俺。 改めて見ても、本当に可愛い。 主役は当然だ。 「 あのね、おんなのこはみんな、シンデレラなの 」 ……はぁ? 聞けば、男の子は皆王子様、女の子は皆お姫様、らしい。 「 何だ、それは。そんな可笑しな話があるか。 主役はあくまでひとりだろうが。俺の娘だけでいい 」 幼稚園に文句を言ってやる、と立ち上がると、やめてよ~、と誌乃が慌てて俺の腕を掴んだ。 「 そういう親御さんが多いから、みんな主役になったのよ…」 「……」 全く、不可解だ。
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