0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
田舎から都会に出てきてはや数年。
山も川も、自然のない生活にももう慣れた。
日々の忙しさに追われ、働き、帰って、寝て。
そしてまた同じ一日を繰り返す。
こういう生活をしていると忘れそうになる。
まだ、田舎で暮らしていたときのことを。
あのときはもっとのんびりとしていて、友達と遅くまで夢を語ったり、ぶらっと野山に散歩しにいき。
そんなこと…もう何年やってないだろうか?
帰路の途中にある田んぼの畦道で。
ふと、どこからか匂いが漂ってきた。
それはなんてことない、どこかの家から香ってくる食卓の香り。
オレンジの光に照らされた家。
久しく感じていない、家庭。
思わず立ち止まる。
夕日に照らされた自分。
長く伸びる影が一つ。
あ……。
ふいに過去の映像が蘇る。
それは頭の片隅へと追いやっていた、あの時の記憶。
まだ…僕が一人じゃなかったとき、田舎にいたときの…
たわいもない思い出。
僕らが、まだ一緒だったときの……。
最初のコメントを投稿しよう!