影一つ

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田舎から都会に出てきてはや数年。 山も川も、自然のない生活にももう慣れた。 日々の忙しさに追われ、働き、帰って、寝て。 そしてまた同じ一日を繰り返す。 こういう生活をしていると忘れそうになる。 まだ、田舎で暮らしていたときのことを。 あのときはもっとのんびりとしていて、友達と遅くまで夢を語ったり、ぶらっと野山に散歩しにいき。 そんなこと…もう何年やってないだろうか? 帰路の途中にある田んぼの畦道で。 ふと、どこからか匂いが漂ってきた。 それはなんてことない、どこかの家から香ってくる食卓の香り。 オレンジの光に照らされた家。 久しく感じていない、家庭。 思わず立ち止まる。 夕日に照らされた自分。 長く伸びる影が一つ。 あ……。 ふいに過去の映像が蘇る。 それは頭の片隅へと追いやっていた、あの時の記憶。 まだ…僕が一人じゃなかったとき、田舎にいたときの… たわいもない思い出。 僕らが、まだ一緒だったときの……。
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