12人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
気が付けば、廃棄工場の様な場所に居た。
上半身を起こせば、桜の香りがふんわりとした。
バサッと落ちたそれはかすがの薄羽織。
着物の上に羽織る上着の様なものだ。
「かすが?」
辺りを探してみるが、かすがの気配も姿もない。
ふと頭を置いて居た方を見ると、斬魄刀が二本あった。
一つは自分の氷輪丸、もう一つはかすがの斬魄刀・桜煉華。
遠くへ入っていないことを意味していた。
傷を負った腹へ手をやれば、手当てしたあとがあった。
「あれ?もう起きたの?」
「かすが?」
「瑠(ルイ)がね。たまたま近くを通ったから、頼んだの。わたしじゃ、出来ないから」
哀しそうに笑うかすがを思わず抱きしめていた。
クスクスと笑うかすがに『馬鹿野郎…』と呟けば、かすがは首を横に振る。
戸惑いながら冬獅郎の背中へと手を回す。
ギュッと死覇装を握るかすがが震えていたことは言わないでおこう。
「戻れ、かすが。今ならまだ間に合う」
「もう無理だよ。わたしさー隊首羽織粉々にしたし。隊首会で、わたしと冬獅郎、裏切り者として追われる身に成ったもの」
面白そうに笑うかすがに、冬獅郎の表情は陰りを見せた。
かすがは『大丈夫』と冬獅郎に言い切った。
その自信が何処から来るか解らなかった。
だけど、何故かそんなかすがが頼もしく思った。
かすがは死神自体嫌いだった。
死神に成ったかすが自身もあまり好いては居ない。
だから死神としての常識を何時も逸脱していた。
それはかすがの信念でもあった。
それを無碍にはしたくないと思っていた。
「それにね。冬獅郎がしようと思ってる事、解ったんだ。だから、わたしが廻りを受け付けるから、冬獅郎は草冠だっけ?ソイツに集中してくれればいい」
「かすが、お前…知っていたのか?」
「わたしを誰だと思ってる?こう見えても、貴族・棗家二十五代目当主だった人なんだからね」
「もう、棗家はねぇだろ」
「まあね」
笑うかすがに何度心救われただろうか。
何度かすがの機転驚かされただろうか。
それを考えると、意外にかすがは頼もしく思ってしまう。
「お前も知っての通り、俺は草冠と対峙しなければならない。誰でもねぇ、俺がするんだ」
「わたしは、何があっても冬獅郎の傍を離れないし、邪魔はしない。邪魔をする者を遠ざける」
「……ありがとう、かすが」
そっと微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!