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父親が中学生の時に、母親は高校三年の秋に病気で逝ってしまった俺にはもう肉親は十歳年の離れた弟しかいなかった。
仕事の帰りに弟と顔馴染みになっているコンビニで待ち合わせをし、銭湯へと向かう。
「にいちゃん!」
まだ親が恋しい年なのに泣き言も言わずにいつも笑顔でいる弟に俺がどれだけ救われてることか…
高校を卒業してすぐに俺は工場で働き出した。
毎日部品を作って、と単調だけど僅かでもミスがあると商品にならないから気が抜けないんだ。
担当長に激しく怒られては仕事を投げ出して逃げてしまいたくなるけど、その度に弟のことを考えて思いとどまるんだ。
弟には両親がいないからって不自由で辛い思いをさせたくなかったから。
「何?」
弟がギュッて手を握ってきた。
「将兄ちゃん。ありがとう」
俺の荒れた手を撫でる弟に涙が込み上げてくる。
こんなに優しい弟だから俺はどんなことをしても大切に守っていきたいって思うんだ。
「あのね、今日は将兄ちゃんの誕生日でしょ。だから将兄ちゃんに誕生日のプレゼント」
睦月がジャケットのファスナーを開き中から紙袋を取り出しハイッて渡してくれた。
お腹が少し膨れていたのは俺へのプレゼントを隠してたからなんだ。
見ると薬局の紙袋にマジックで赤いリボンを書いていて
「睦月。ありがとう。」
睦月はコツコツとお小遣いを貯めて買ったんだろう。
嬉しすぎてとうとう涙が零れてしまった。
何将兄ちゃん泣いてんの?なんて今度は頬の涙を拭ってくれるから
「睦月の気持ちが嬉しいんだよ」
何かな?ここで開けていい?
「いいよ」
袋を開けてみると中にはハンドクリームが入っていた。
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