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偶然だった。
遊びで付き合っている女をマンションまで送り届け、今から本命?ともいえる彼女とイブを過ごすために道路に止めてた車に戻ろうとして、目の端に映った風景の一部だった。
最初はただ年の離れた兄弟が仲良く手を繋いで歩いているだけの姿。
俺とかなり近い距離にいるのに二人は俺に気付くことなく話しながら歩いている。
俺より年下のはずなのに、なんて古くさい昭和な匂いを漂わせている二人なんだって内心笑いながら眺めてた。
今時こんなレトロな奴等がいるんだな、と。
ちょっとした好奇心で後を歩きながら眺めていると二人は立ち止まった。
合わせて自分も立ち止まってしまう。
立ち止まった二人の会話が聞こえてきて…
弟がジャケットから小さな紙袋を取り出し兄に渡す。
兄はそれを手にして
「…涙?」
街灯に照らされたその頬が涙で煌めいていて…
その表情に俺は息をするのを忘れてしまっていた。
舞い降りる雪に二人が空を見上げる。
二人の会話から兄が今日誕生日だと知った。
あの小さな紙袋は弟からの誕生日のプレゼントだったんだ
二人がまた歩き始める。
俺は二人が歩いている先にある銭湯に入って行くのをずっと見つめていた。
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