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椿季が、その大きな瞳に溢れんばかりの涙を溜めて、桜花を見上げた。
桜花
「見損なうなよ、椿季。私が、これくらいのことで、椿季を嫌いになるわけないだろ?」
そう言う桜花は、蕩ろけそうなほど、甘い微笑みを浮かべていた。
桜花はとことん、椿季にだけは甘かった。昔から、慈しみ、護って来た、『唯一無二の親友』なのだから。
椿季
「あっ、おーちゃん。桜、もうすぐだね。今年は開花が、例年より随分早いって、TVで言ってたよ。」
桜花
「じゃあ、演習会が終わったら、二人で花見に行くか。折角、京都なんだし、『御室桜』(京都・仁和寺の桜。枝振りが低く、桜の名所として知られる。)でも見に行く?」
椿季
「ホントにいいの、おーちゃん?わぁい、やったぁ♪」
心底、嬉しいのだろう。椿季は今から、はしゃいでいる。
ーリーン、リリィーン
突然、どこからか何かの音が聞こえた。そこで、ふと異変に気付いた。
先程まで、周りにいた人達の姿が、軒並み消えていた。
それだけではない。人の喧騒はおろか、鳥の声、生活音さえ聞こえない。
ーこの不思議な音、以外はー
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