─ 黒 ─

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   気の狂ったご婦人は、真実を知らぬまま  美しきカナリアは  声を枯らして泣き果てた   変わり果てた母の姿を目の前に カナリアは母の愛を知らぬまま     それはまるで     美しき蝶のよう…   カナリアは毎日夢を見た   母に愛されないカナリアは   小さな小さなカナリアは  決まって怖い夢を見る   かつての母が与えた   小さなテディベアを抱きしめ   カナリアは父のもとへと鳴きながら訪れる  父は優しくカナリアを包み込む  “母さんは病気だから、そのうち元気になって、沢山愛してくれるよ。だから、それまで二人で、母さんを支えてやろうな”   そう父の腕の中で毎晩聞きながら   カナリアは眠りについていた     それをまるで    美しき蝶のよう…   目の前にふわり飛んだ蝶々をカナリアは見た   その最期の時まで   カナリアは声が出なくなるまで鳴き続けたあと   上へ上へと翔んでいく   今度はカナリアが  蝶になる   カナリアは蝶が伏す地面に飛び立った   初めて母に抱かれ   蝶々とカナリアは眠りについた       それはまるで    美しき蝶々達…   カナリアは毎日   内には寂しさを潜めながらも   幸せそうな顔で   いつも歌っていた  どんな母に避けられていても   “mam I love you”と   ─ madam butterfly 蝶々婦人 ─   父は大切な妻と娘を失い   人知れず   蝶のように舞った      ─end─
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