Vine

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そのケーキは、私の大好きなお店のもので。 中でも一番のお気に入りのイチゴのタルトだった。 一瞬、私の好みを知っててくれたんじゃないか、と 勘違いしそうになる。 「美味しい!!」を連呼する店長さん…もとい皐月さん(サツキ、って呼んでねと訂正された)と対象的に 黙々とケーキを食べるミツキさん。 「ミツキは私の妹で、 時々ここを手伝ってくれてるの。」 さっきも近くのカフェまで配達に行ってたそうだ。 ちらり、と目をやると さすが皐月さんの妹さん…タイプは違うけれど、整った綺麗な顔。 黒髪のショートカットで、どこか中性的な。 「…じゃ、帰る。」 「これからバイト?」 「うん。仕込みとかあるから。」 ごちそうさま、と立ち上がり ミツキさんは去っていった。 カラン。 乾いたドアベルの音と ドアから入ってきた風に揺れる細い葉。 「そうだ、ヒナちゃん」 「住所とか電話番号とか…一応教えてくれる?」 手渡されたベビーピンクの紙には、ヒナちゃん履歴書、と書かれてあった。 …手書きで。
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