『遠野物語』とは?

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  柳田國男は明治初頭から昭和まで生きた「日本民俗学の父」と称される人物です。 文明開化に浮かれて右も左も西洋文化を持て囃していた時勢の中で、彼は日本古来の神話や伝説に興味を持ち、 各地の伝説や文化を収集・体系化する事で「日本人の心」を解明しようと試みました。 彼の研究が日本における民俗学の夜明けを告げ、その先に現在の伝統文化保全の姿勢や妖怪ブームがあります。 「日本で始めて“不思議な話”を研究した学者」――とでも言った方が分かりやすいかも知れません。 この『遠野物語』は柳田國男が明治四十三年(1910年)に発表した説話集です。 岩手県遠野町に伝わる民話を収集していた作家・佐々木鏡石(本名は佐々木喜善)が語った内容を、 柳田が「一字一句をも加減せず感じるまま」に書き写し、本にまとめたものです。 ――柳田が『遠野物語』を書いた時代、こういった伝承は古臭い迷信として軽視され、消え去りかけていました。 柳田は一つの集落の伝説を丸ごと書き写す事で、消え去りかけていた神や妖怪の姿を永久に残したのだとも言えます。 そしてこれは遠野だけの宝ではなく、日本中に無数にあるモノだ、その価値を再認識しよう――そう人々に知らしめたのです。 この本は大反響を呼び、当時に於いてはある種の幻想文学としても評価されました。 聞いたままを記録した資料的作品ながら、美しく詩的な文体である事がその理由のようです。 偉大なる民俗学の父が残した記録を、本稿では現代語訳を添えつつ紹介していこうかと思います。 非常に美しい文体なので、ぜひとも原文もじっくり読んでみて下さい。 怪談集や近代における妖怪の目撃談集として読んでも非常に面白いかと思います。 さて、百年前の遠野の里に微かに残された――私達の住む国にかつて満ち溢れていた――あるいは今も生き続けている――美しい幻想の世界へようこそ……
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