1章

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金曜日。夜中の8時の駅通り、仕事帰りのサラリーマンやデートを楽しむカップルで溢れている。 そんな人混みのなか壁を背にして売れない歌手が路上ライブを繰り広げる。 僕はこの路上ライブが大嫌いだ。昔の自分と重なってしまい夢を諦めた僕の心を締め付ける。たけど初めて見る歌い手を見かけるとついつい足を止め聞いてしまう。 路上ライブをする奴らの歌詞は自分で自分を励ましてるかのように夢を諦めるな、きっと願いは叶うなどといったものが多くそんなフレーズが僕を苛立たせた。 「おい純、冴えない顔で聞いてると失礼だろ」 高校生時代のバンド仲間で今でも交友のある武は待ち合わせである居酒屋で僕の顔を見るなり挨拶変わりのように僕が路上ライブが嫌いな事をおちょくってくる。 「全くいつになったらお前の音楽嫌いは治ることやら‥‥。そんなんじゃ天国の香苗ちゃんも悲むぞ」 武が小さい声でボソッと呟いた言葉に耳を疑った。 「おい、何冗談言ってんだよ」 僕は怒鳴って立ち上がった。 「やっぱりその様子じゃ知らなかったみたいだな。まあ店の中だし落ち着いて読めよ」 鞄から今週号の週刊誌を出すと歌手の叶絵死去のページを開き僕に見せた。 叶絵とは本名畠山香苗。僕と武が組んだバンドのボーカルを勤めてくれていた。そして僕の最愛の女性だ。 渡された週刊誌を必死に読もうとしたがどうしても見出しに大きく書かれた叶絵死去がショック過ぎて記事が頭に入らない。 「葬式にお前の姿がなかったからもしかしてって思って。すまんな今まで黙ってて」 「黙ってたってなんだよ!わけわかんねぇよ」 申し訳なさそうに喋る武をお構いなしに胸倉を掴んだ。 「店に迷惑になりそうだな。外で歩きながら話そう」 武の表情は全てを覚悟しているようだった。
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