初見

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父さんは『いきなりはやっぱり恥ずかしいか 早く慣れろよ』と言って、また料理を食べ始めた。 俺も鯛の刺身に箸を伸ばすと、その手を咲夜がつかみ『ちょっと来て』と囁いた。 店の前まで連れていかれると、咲夜は俺を正面から睨んできた。 「ねぇ‥‥なんで?」 「は?何が?」 いきなりなんでっつわれたってわかんねぇよ。みたいな困り顔をすると、咲夜は軽くため息をつきながらまた話し始めた。 「どうしてお母さんに『お母さん』って言ってあげられないの? お母さんはあなたに会える今日のことをすごく楽しみにしてた。 今朝だっていつもは全然迷ったりしないのに、あなたに良い印象を与えるにはどんな服が良いかってあたふたしてた。そのくらいあなたに受け入れてもらえるか、お母さんは心配してたのに‥‥‥‥お母さんにあんな悲しそうな顔させるなんて」 咲夜は涙ぐみながらそう言った。 「そうだったんだ 俺は別に悲しませるつもりなんてなかったよ。人生で一回も呼んだことない『お母さん』を口に出すのがちょっと恥ずかしかっただけだし、受け入れるもなにも、父さんがえらんだ人が悪い人なわけないし、あんな綺麗に笑う人を拒むわけないじゃん。結婚だって大賛成だし」 俺はできるだけ優しい声で、彼女を慰めるように言った。
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