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季節は夏
土から這い出て樹に登り、成虫になった奴らがたった1週間でどれだけ輝けるかと、そう言わんばかりの勢いで鳴き始めた頃。
学生たちには、来たるべき夏休みを獲得するための難関、期末テストが翌週に迫っていた。
そんな時期のとある国新しくも古すぎることもないマンションの13階
福光と標札の着いた部屋。
太陽が最高の位置に登りきった頃。
リビングにまだ覚めきっていない目を擦りながら入る。
「あれ、父さん今日は仕事ないの?」
「ん、おはよう裕也。今日は休みなんだ。なぁ……裕也、起き抜けで悪いが少し話があるんだ。そこに座ってくれ」
父さんはそう言って、俺の指定席である、小さな正方形のテーブルの空いてる側の椅子を指差した。
「なんだよ改まって。あ、 勉強ならちゃんとやってるよ?今日も1時半から図書館行くし」
「そういう話じゃないんだ。もっと重要で、これからの生活に大きく関わってくることなんだ」
「ん‥‥」
学生の本分をそんなこと扱いして、いつになく本気の目をした父さんは、俺が椅子に座ると一息ついて話し出した。
「お前も来月で17だな。ということは由美が死んでもう16年か、 早いな」
「そうだね」
「おっさんくさい言葉だが、月日が経つのは早いもんだな。お前は16年あったら、人は大きく変わると思うか?もちろん身体的にはガラッと変わるだろうが、中身はどうなんだろうな」
「変わる人は結構変わるんじゃないかな」
父さんは俺の言葉を聞いた後、また一つ小さく深呼吸をする。
「変な前置きから入って悪かった」
「大丈夫だけど」
父さんが何を話したいのか、良くわからない。
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