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そっと、ポケットに手を伸ばす。護身用のナイフが手に触れた。いざとなれば使わざるを得ないだろう。
だけど……怖い。
今まで暴力には無縁で生きてきた。傷つけるのも傷つくのも怖い。良く見ると爪が奇妙な位に鋭いことから相手は人間じゃなく妖怪の類だとわかった。別に珍しくない。
世界は大きく分けて、文明界と自然界に分かれている。数百年前に一部の人外と人間の間で和解が成立し、人間と共存していくことになった。それはここ、針風町も例外ではない。空を見れば人型の生物が飛んでいるし、道行く人々には角や獣耳が生えていることもよくある。その人外の内の多くが妖怪だ。
まあ、今はそんなことはどうでもいい。
さて、どうしよう? 相手の力が強いことが問題だ。私の唯一の武器は力の差を埋めるにはあまりにも頼りない刃。正面からでは押さえ込まれてしまうだろう。まさしく絶体絶命。
下卑た笑いを浮かべじわじわと近寄ってくる不良AとB。余りにも脆弱なナイフを握る手が震える。不快な冷や汗が背中を撫でる。
……神様なんてものが居るならお願いします。
誰か……
私を助けて!
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