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『あぁ……あがぁぁぁ、ああァァァァァァァアアッ!』
苦渋、憤怒、悲嘆、動揺。
それら負の衝動を全て内包した様な狂った雄叫びを挙げながら、俺の前に立ち塞がる存在。
青白の月明かりによって宵闇の世界に浮かび上がるそのシルエットは、この世のどの生命にも属する姿をしていなかった。
(おいおい……なんだよこれ?夢でも見てんのか俺は?)
自問の思考と共に獣声を挙げ続ける異形を俺は仰ぎ見る。
大きさこそ人と同程度だが、細く歪なフォルムをした四肢はくすんだ金属光沢を纏い、肩甲骨の辺りから生える異形の翼。
胴体は人間の骨格だけをそのまま再現したかの様な形をしていて、そこから伸びる頭は仮面の様な装甲に覆われていた。
明らかに常軌を逸した存在。
そんな生物に会っただけでも衝撃的だと言うのに、その異形と俺の間に立つもう一つの存在が思考の乱れを加速させていく。
「…………」
(なんでコイツが……)
へたり込んだ事で低くなった視界の中で夜風に揺れる長髪。
俺の前に割り込み、唸る異形と対峙するのは1人の少女。
下弦の月に照らされ薄い青を纏う黒髪の持ち主が着ているのは自身が通う学校の制服であり、その少女を俺は知っていた。
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