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「おい!」
「……いずれ分かります」
沈黙に耐えられずに、声を荒げた瞬間大気に響く澄んだ声。
その声と共に彼女は華奢な親指で携帯の決定キーを押し込む。
――それが契機となった。
「変、身」
「!?」
呟く様な言葉と同時、圧倒的な蒼の光に包まれる少女の体。
それらは指向性を持った輝きを灯しながらまるで生物の様に蠢き、絡み付き、彼女を縛る。
華奢な肢体を制服の上から固定した幾筋もの光の帯は全身を包み込むと共に胎動し、膨張する事でその形を立体的な物へ。
「ん……っ……」
光帯が編み上げた灰色のボディ―スーツが浮かび上がらせる、丸みを帯びたシルエット。
その肉感的な輪郭の上に被さるのは流麗でありながら鋭角的なラインを描く深青色の装甲。
脚、腰、腕の順に起こる変化の波はやがて彼女の顔にまで到達し、頬のラインに添って額と耳を覆うヘッドギアが生成。
風に靡いた黒髪は二房に別れながら白銀に染め上げられ、澄んだ黒の瞳は鮮やかな赤色によって塗り潰される。
『うゥ、ァあ……』
「…………」
そうした工程を数秒と言う時間を以て行い、眼前で全く別の存在へと変貌を遂げた上代。
その深紅の視線が唸りながら後退る異形へと固定され――
「ターゲットを確認……。これより殲滅を開始します」
浸透する澄んだ声を響かせ、夜闇の大気に蒼の残像が走った。
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