28人が本棚に入れています
本棚に追加
人間の視認速度では消えたとしか表現出来ない速度で加速した彼女の行く先は異形の懐。
一度姿を見失った異形が再び彼女を捉えた時には、既に少女の放つ神速の右ストレートがその肉体へめり込んでいる。
『ぁァぁぁゥァッ!?』
戸惑いの声と共に宙へとふっ飛ばされる人ならざる肉体。
夜の大気を遊泳する体躯は背後にあった電柱に叩きつけられた事で受け止められ、激突の衝撃によって電柱はへし折れる。
通常の生物なら無事で済む様にはとても見えない威力の拳。
しかし唸り声を吐き出して砂埃の中から現れた異形は痛みに震える事無く、激しい怒りの形相を浮かべ少女を睨み付けた。
荒れ狂う異形に眉一つ動かさない所を見る限り、今の攻撃が効かない事はわかっていた様で――置いてけぼりなのは俺1人。
(なんでこんな事に巻き込まれちまってんだ……俺は)
この場から完全に忘れ去られた俺は声にならない思考を浮かべ、頭を掻いて記憶を漁る。
学校が再開し、友人と笑い合い、放課後バイトに精を出す日常が、一体何処で狂ったのか。
その答えを得る為に、俺は自身の『世界』が変わってしまった今より前――今朝までの記憶を遡ってみる事にした。
――――――――――――――-
最初のコメントを投稿しよう!