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王城の正門より帰還した2人を見て、宰相は安堵の溜息を吐いた。 国王と元王妃が無事であった事は勿論であるが、その後ろより地面を規則正しく踏み鳴らし行軍する兵士の姿に何より安心したのだ。 予想より早くご帰還されたが、どうにか間に合ったか。 宰相の生家は代々の宰相を輩出して来た一族で、国王との付き合いは幼少より続いている。 だが宰相が宰相たり得る理由は、その能力も大きい。 突然出奔した元王妃の行方不明は、出戻りをしてプーカ国のものとなった以上、生家に報告はせざるを得ない。 だが戦後傘下に入ったその他の属国は元王妃の出奔の理由に国王の粗を探す。どんな小さな火種も残さぬよう気は配らなければ、砂上の城である王家は保たない。 ただでさえ平民出身の王妃が立ったばかりである。 元王妃の出奔は出来るだけ秘匿としたい所であったが、最近の国王の凶行は目に余るものがあるだけに、宰相は手を打っておいたのだ。 あくまでプーカ国から公務の帰還だとアピールできれば、決定的な失態とはならない。 腹の探り合いである以上、相手方も出来るだけリスクを避けてこちらの致命的な瞬間を待ち侘びている。自分にリスクが大きな状況では手出しはして来ない。 資金の動きがあった訳でもない今回は、建前さえ取り繕うことが出来れば何とかなる。 それにしても、正門から帰ってくるとは…… 王城にある門の内、目立つ門のそれぞれに兵士を分割して入城を申し渡していたが、1番目立つ門から帰ってくるとは掛けておいた保険の範囲内ではあるが、予想の範囲外である。 陛下…… 宰相は幼馴染が分からなくなっていた。 彼の方は、幼い頃から王でありそれは青年になっても変わらなかった。 だが出逢いとは人間を変えてしまうものなのか、国王は最早国王ではなくなってしまったのかもしれない。 アリシア王妃殿下と出会って以来、何処か歯車が狂ってしまっているようだ。 陛下は「人間」になったが、「王」ではなくなってしまっている……。 宰相は自分の保険が違うこと無く役目を果たした事に安堵すると共に、活躍する事無く無駄となって終わって欲しかった保険が機能してしまった事態に不安を感じながら正門より帰還する2人を迎える為片足を突いて首を垂れた。
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